六カ所に関するGPJの指摘と澤田博士によるアンサー |
2011年4月 8日 |
2008年2月1日の「i-morley」エントリーを再度掲載します。
☆リスナー諸氏からコメントをいただいている「六ヶ所村再処理施設」に関して、環境団体「グリーンピース」は「こんなものいらない! 危険、ムダ、不経済」というパンフレットを配信しています。このパンフレットに列挙された論点について、東工大の澤田哲生博士に質問メールを送り、答えをいただきましたので、以下掲載します。
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STOP!再処理
「こんなものいらない! - 危険、ムダ、不経済 -」について
1.プルトニウムは用途がないのか?
プルトニウムの用途ですが、これはまず現在日本国内にある軽水炉で、その燃料の一部として使います。これを慣用的に「プルサーマル」といっています。サーマルとは軽水炉のことです。軽水炉内で飛び交っている中性子を熱(サーマル)中性子と呼ぶところから来ています。高速炉で使う高速(ファースト)中性子との対比です。
そもそも10年以上まえからこのようなプルサーマル計画が具体的に動き始めました。そのままならばとっくに軽水炉でプルトニウムは使われているはずでした。ところが、最初に始める予定だった東電で、いわゆる「東電のシュラウド問題」などが社会問題化しました。結果的に、その影響で計画は一旦頓挫してしまいました。その後紆余曲折がありましたが、ごく最近では関電が高浜原発でプルの利用計画を再開すると発表しています。
関電以外では、九州、四国、中部、北海道電力などでも、プルサーマル計画は進んでいます。このようにリサイクルしたウランやプルトニウムの有効利用がまもなく本格的に始まろうとしています。 もうひとつ重要なことは、原子炉に新規にいれた燃料の中身はウランばかりですが、原子炉内で核分裂反応が始まると同時に、少しずつですがプルトニウムが発生し溜まっていきます。このプルトニウム自体がすでにそこに在ったウランと同様に核分裂反応を始めるのです。つまり、この時点でプルサーマルは事実上始まっている訳です。
さて、いわゆる「プルサーマル」、つまり使用済み燃料から取り出したプルトニウムの再利用に話を戻しますが、実際にはプルトニウムとウランを混ぜて燃料にします。原子炉一基の燃料量は目安としては20トンくらい(原子炉の規模に依っても異なります)です。プルサーマルでは一基あたり一回に1トン程度のプルトニウムは必要になってきます。
日本には軽水炉が53基あります。また、半年程度で燃料を交換します。いきなり53基すべてがプルを使い始める訳ではありませんが、その方向に緩やかに推移していきます(当初の計画では2010年までに16〜18基をプルサーマルにすると考えていた)ので、44トンくらいは早晩使いきってしまうでしょう。もっとも、この44トンのうち、実際に燃料として利用できるのは30トン程度です。それと、海外に今ある日本国籍のプルトニウムには、海上輸送の問題等があります。
日本は近い将来(早くて2030頃が目処、遅くとも2050頃)に高速炉を実用化し、軽水炉と置換していく計画を進めています。
高速炉はプルトニウムをたくさん必要としますので、それまでに溜め込んでも足りなくなる恐れが大きいという見積もりもあります。プルトニウムは自国内で生産したものですから(もともとのウランは輸入もの)、"純国産"の燃料であるととらえています。
[補足]
ちなみに製品としての20トンの燃料は、大ざっぱな見積もりですが、2−3億円の価格です。原発一基の(建設製造時の)お値段は3000億円ほどです。施設の利用年数は何と60年ですから、年割りにすると50億です。燃料は半年程度で部分的に交換しますが、それを考えても燃料費は1割いくかどうかですね。燃料費が占める割合が小さいのです。火力発電所の場合は、コストのほとんどが燃料費です。ですから燃料価格(オイル価格)の変動に対して脆弱です。オイル価格は昨年から急騰しています。
2.リサイクルすると放射能は増えるか?
リサイクルすると放射能(放射線を出す能力)は、総量として減ります。
なぜか?
一番大きな要因は時間の経過です。これは、放射性物質は常に放射線を出しながら時間とともに減少していくからです。ですから、使用済み燃料は原子炉から取り出した直後に最も放射能レベルが高く、徐々に減衰していきます。使用済み燃料から出てくる放射線のエネルギーは他の物質に吸収されたり、熱等の他のエネルギーに変わっていきます。
ただし、使用済み燃料の再処理では、ウランやプルトニウムを分離する過程で、化学物質を使ったり、機器や容器を使いますので、そういうものが副次的に放射性を帯びることになります。
また同時に、放射性物質そのものが(ほかの機器や物品に付着したり混じったりして)分散する傾向があります。それらが低レベルや中レベルの放射性廃棄物になる可能性がありますので、放射性を帯びた物の嵩(かさ)=体積や質量は増えますが、放射線の強さの総量を考えれば、減っています。
一番厄介な高レベル廃棄物に限っていえば、使用済み燃料を直接処分するよりもリサイクルした方が量は減ります。
なぜか?
使用済み燃料中にあるまだ使えるウランやプルトニウムは分離されて再利用され、残った核分裂生成物のみを廃棄物として捨てるからです。
嵩(かさ)の増加のイメージですが、元々の量が(象徴的にいって)"フィルムケース1個"分とすれば、それが、"ワインボトル1本"になる可能性があるという感じでしょうか。ただしそれを管理・処分する際のの"厄介さ"は減っています。放射線のレベル(強さ)が低いということです。
3.再処理は不経済か?
19兆とか43兆とかいうお金は決して小さくないですが、これは何十年にも亘ってかかる費用ですね。また、取り出されてリサイクルされるプルトニウムやウランの便益のことも勘定に入れないといけないと思います。さらに、火力発電や自然エネルギーによるコストとも比較する必要があると思います。特に化石燃料、中でも石油はどんどん高騰しています。今後もその傾向は続くでしょう。安い石炭は二酸化炭素の排出と硫黄成分等による環境汚染がひどいですね。クリーンコールの技術ができるのには少なく見ても20年以上先のことです。
使用済み燃料はそのまま捨てれば扱いが厄介な"ごみ"にすぎませんが、ウランやプルトニウムという貴重な"資源"を含んだごみです。
特にプルトニウムは原子炉の中で、核分裂という天与の物理現象をうまく制御して、その結果うまれた物質です。これが新たな価値、つまりエネルギーを生みます。ここが紙やペットボトルのリサイクルと違うところです。
それともうひとついうべきことは、このようにしたプルトニウムは自国で生まれた新規な燃料ですから、エネルギーの安定供給に役立ちます。
[補足]
ウランやプルトニウムは超新星爆発が起こった際の、元素合成過程(r-プロセスといいます)で合成されます。ですから宇宙のどこかにはプルトニウムが天然に存在すると考えられています。
46億年前に地球ができた当初は、ウランだけでなくプルトニウムも地球の構成要素として存在していた可能性があります。しかし、プルトニウムのなかでなにかと問題にされるプルトニウム239は、その半減期が2万4000年と非常に"短い"ので、46億年の歴史の中であっという間に減衰していき、いまや跡形もないということです。(最も半減期の長いプルトニウム244でさえ、わずか8000万年なので、いまや跡形もありません。)
一方、ウラン235は半減期が7億年と非常に長い(ウラン238は44億年)。いまや天然ウランの中にウラン235は0.7%しかありません(残りはほとんどがウラン238)が、地球ができた頃にはその割合はずっと高かったのです。約20億年前くらいに、天然ウラン中のウラン235の同位体比が3%以上はあったということが分かっています。3%といえば、今の軽水炉燃料と同じくらいです。
約20億年前、アフリカのガボンのオクロという場所のウラン鉱山では、ちょうどいい具合に水があったようで、天然に核分裂連鎖反応が起こって熱を出していた痕跡が確かめられています。これをオクロの天然原子炉と呼んでいます。
[半減期:半減期が7億年とは、7億年ごとに半分に減っていくということです。46億年はほぼ7×7億年ですから、最初に1あったものが2の7乗分の1になります。2の7乗は128ですから、1÷128は1%弱になりますね。なお、ウラン235の半減期は正確には7億370万年です。]
4.使えないプルトニウムに"何か別の意図"?
すでに説明しましたようにプルトニウムは「プルサーマル」で利用する計画が進んでいます。しかし今現在は軽水炉用燃料として使っていないので、この上さらに六ヶ所で製造しようというのは、"何か別の意図"があるのではないかといわれることがあります。
"何か別の意図"が何を指しているかよくわからないのですが、これがもし仮に時々取りざたされる"軍事利用(つまり核爆弾の材料にすること)"の可能性をほのめかすものであるとすると、いくつか指摘しておきます。
六ヶ所で分離されるプルトニウムは、原子炉級プルトニウムといわれるもので、一言でいえばプルトニウムの質が悪い。しかし、原子炉級プルトニウムを用いて、爆弾ができない訳ではないです。ところがいくつかの難点があります。
1)製造が難しくコストがかかる、
2)爆弾として製造できても爆発威力が低くて性能がおちる、もしくは爆発しない、
3)管理が厄介である(特に冷却の問題)、
つまり兵器としての魅力が格段に低いということになります。
プルトニウムは普通いくつかの同位体の混合物としてあります。プルトニウム239という同位体が核爆弾の材料に最も適した"活きのいい"やつです。ですから、混合物中のプルトニウム239の比率が高い方が兵器利用に向いているのですね。軽水炉から得られる原子炉級プルトニウムには、プルトニウム239は50〜60%ほどしか含まれません。兵器に利用されるプルトニウムは、通常この割合が90%以上のものです。これを兵器級プルトニウムといいます。
爆発性能がよくて、管理しやすいプルトニウム爆弾が欲しいのなら、兵器級プルトニウムを生産する方が良いですね。格段に難しい話ではありませんので。
5.日本のようにはそうそう簡単にいかない
どこかの国が「日本は国内で再処理を始めたのに、どうして我々はできないのか」といっても、なかなか同じようにできない国際的枠組みが既にあります。
再処理の技術は、英国やフランスの技術移転なしにはできません。このような技術移転は、当事者の二国間の取り決め(二国間協定)や、それをさらに取り巻く国際的な取り決め・合意などの枠内ではじめて可能になります。
日本は1970年代にずいぶん苦労して、主に米国を説き伏せてその権利を得ました。これは米国主導の国際核燃料サイクル評価(INFCE)という活動のなかで行われました。
当事はカーター政権で、カーターさん自身はプルトニウムの利用に大きな疑問を持っていましたので、日本は非常に困難な交渉が強いられました。それがINFCEなどを舞台で行われたのです。
日本がやっているから自分の国でもやらせろといっても、米国のような国がうんといわなければできない。
日本はINFCEなどを通じて、そのような権利を得て、その後莫大なコストと人手をかけて核不拡散に尽力している。そういう"優等生"になることが認められれば、あらたなケースが出てくるかもしれませんが、現在の諸般の事情を考えれば、それは非常に難しいと思います。
[補足]
日本は原子力基本法で、平和利用にのみ原子力を使うと自己規定しています。また、「非核三原則」という国是があり、"核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず"と自己規定しています。そういう国は他にないですね。これも重要なポイントです。要するに日本は"核武装しないと決めた"のです。江戸時代に鉄砲を捨てた日本人の心情にも似た"自ら率先して行う軍縮"的発想だと思います。
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Posted by i-morley : 00:28