さて、その後いろいろなリサーチを続けましたので、まとめを掲載します。
The Australian:1984年、Live Aidで集まった募金はほとんど反乱軍の軍事資金になった、と当事者が亡命先で証言。
英ガーディアン:ボブ・ゲルドフ「Live Aidの募金は流用されていない。BBCに強く抗議する。」
英ガーディアン紙に掲載されたゲルドフ氏によるコラム。疑惑を記事にする記者たちを猛烈に攻撃する内容。 ☆すでにBBCもゲルドフも引くに引けなくなっています。
英インデペンデント:エチオピアの現首相がBBCの報道を否定。首相は1984年当時、募金を軍事に流用したと指摘されている人物。
☆豪で証言している当時の反乱軍幹部は現エチオピア首相の配下にいた軍人で、その後亡命した人物ですが、募金の流用だけでなく米CIAからも支援を受けていたと明言しています。当時エチオピア政府はソ連の援助を受けており、傀儡同士の戦争が行われていました。
☆また趣味的に調べてみたのですが、冷戦時に米CIAが各地で武装組織を軍事支援していたことは公文書で明らかになっています。ベトナム戦争時代(1960-1970年代)にCIAはラオスの少数民族モン族を反共軍として育てようと試みましたが失敗。紛争後、膨大な数のモン族が難民になりました。
☆隣国のタイは最近までそのモン族を難民区域に置いていましたが、何を思ったか強制的にラオスに帰還させています。今頃は...というか、もうめんどくさくなったのか...同じ時期にミャンマー西部から難民となったロヒンギャ族が船でタイに入ろうとしたところを「撃沈」されたとの報道。タイ政府は否定。
また同様にアメリカ政府、中国政府、ベトナム政府はカンボジアの内乱に関与し、それぞれの派閥を支援したり離反したりしていましたが、混乱の中、フランス留学から帰国したグループがポル・ポト派を指揮し、史上最大級の虐殺を自国民に対して行いました。今日、その虐殺を覚えている大人が「いない」。
1960年代のラオス、1970年代のカンボジア、1980年代のエチオピアでそれぞれ人知れず大規模な紛争が続きました。冷戦が終わった後もエチオピアの紛争はエリトリアの分離独立、そしてオガデン地区の紛争へと継承されています。エリトリアは「アフリカの北朝鮮」と呼ばれています。
NYT:国連からのリーク情報。ソマリアに送られた食料援助の最高で半分程度はイスラム系武装組織、現地の業者、および現地の国連職員に横領され、闇市場で売りさばかれているそうです。 腐敗した政府関係者が海賊に旅券を発行しているとも。
Alert Net:イタリアの議員による証言:過去8年の間にアフガニスタンに寄せられた340億ドルの援助金の内、70から80パーセントは横領されている。アメリカ政府からの支援金が法外な価格設定でアメリカの業者へと循環するケースも。
先の津波に対する募金もかなりの金額で横領・流用された事例が報告されています。現在進行形でハイチへの支援金も世界中から集まっていますが、ハイリスクとされています。透明性を回復するための国際的な努力が求められます
英インデペンデント:Live Aidの運用した組織の数々がBBCの報道に反論。ただし、米政府はCIAを通じて軍資金を反乱軍に提供していたとする証言も。「アメリカは知らないけどヨーロッパのNGOを通った募金のほとんどはクリーン」との主張。
☆日本語で現在検索に引っかかるのは、この記事だけ。時事:反政府勢力の資金に=80年代エチオピア飢餓救援-英BBC ☆3月5日以来、続報がありません。これでも日本語の海外ニュース、十分でしょうか?
一方で、これです。読売地方版:チリ地震救援へ募金箱 ☆世界中で募金への疑惑が巻き起こっている最中に、やっぱり呑気な報道姿勢だと思います。
カナロコ:ハイチ被災者に市民募金420万円、WFPに贈呈/横浜 ☆現在ソマリアでの流用疑惑にさらされているのは、同じWFP。ちょっと無防備な感じがする。
昨夜の「アクセス」で繰り返し出ていた反論が「日本語になっているニュースだけで十分」「英語圏の情報をもっと知れ、とするのはアメリナイズせよ、と言うのと同じ」の2点でした。でも、子供や市民がボランティアをして募ったお金をWFPにそっくり渡して、それがハイチやチリで半分以上消えるのは...
毎日:ソマリア:苦境、帰国報告で訴え--日本ユニセフ協会大使、アグネス・チャンさん ☆文字数が少ないっす。
前後の脈絡からはずれて断片だけが報道され、「日本ユニセフ協会大使がソマリアまで行っていいことをしてきました」で丸くおさまっちゃうと、それを聞いて「感動を、ありがとう」と子供手当などのお金の一部を募金→武装勢力や海賊の資金になる懸念も。初歩的なミスなんだけど、報道側の責任です。
パズルの断片だけが場当たり的に報道され、「善意の祭り」を自己満足で行い、紛争地域の闇へと募金を放り込み、そしてよくわからなくなって「世界政府がすべてを裏で仕組んでいる」という結論に飛びついてしまう...というサイクルから、どうすれば抜けられるのか?が課題だと思います
こういう複雑でダークな状況をつきつけられると決まって2通りの反応があります。「じゃあ、もう募金や支援は一切やめよう」あるいは「でも私たちは善意で募金しているんです。その善意までも否定するんですか!」どちらにも振り切れず、バランスを保って支援を行うためには援助先を熟知する必要あり。
読売地方版:カンボジアに支援米1080キロ市民団体が送る 「遠い日本からの贈り物だが、気持ちが届けばいいですね」☆届くのが「気持ちだけ」にならないように...
自分の方向を向いたパフォーマンスとしての募金も、個人の自由です。本気で支援し、状況を改善したいと思うならば、それがいかに困難かをまず知った上で、覚悟の支援が必要。お金を送り届けること以外に、周りの人に情報を積極的に共有するのもひとつの手段となります。
そこで情報共有の要をなすのがマスコミの報道。報道が断片化したり、報道側の人間が国際情勢にうといと、それは「情報インフラ」そのものの弱さとなります。市民レベルで情報を共有する新たな「カルチャー」を育てることが、ゆくゆくはマスコミを活性化させる。
日本のマスコミが優秀な人から成り立っているにも関わらず、海外の情報がちゃんと入ってこないのは、マスコミの経済状態と構造そのものに起因すると思っています。マスコミに完全依存をせず、友達とのネットワークを通じて「インテル」を仕入れていく生活習慣が大事。