UKガーディアン記事「放射性廃棄物の再利用を急げ」


UKガーディアン紙に掲載された記事の訳を以下、公開します。原文の詳細な逐語訳ではありませんが、要点は含まれています。翻訳ミスや日本語のミスなどを発見した場合、後ほど訂正します。他に逐語訳をされた方がおられましたらツィッター上で「@gjmorley」までご連絡をください。


UK Guardian - We need to talk about Sellafield, and a nuclear solution that ticks all our boxes(2011年12月5日・記事リンク

George Monbiot記者


セラフィールド、そしてみんなで合意できる原子力のあり方について議論をしなくてはならない時が来た


放射性廃棄物をエネルギーとして再利用するための原子炉はすでにある。「緑」な人たちは迷信ではなく科学に道を求めるべきだ


私自身が所属している環境運動は、今年地球の生態系に大変なダメージを与えた。そのダメージは「温暖化否定派」よりも遙かに大きい。ドイツ政府は「緑」の圧力を受けて原発をシャットダウンした結果、2020年までに3億トンもの炭酸ガス(CO2)を排出することになる。これは今までEU全体で省エネに努めてきた分をほぼ相殺してしまう排出量だ。他の国もこの悪例に習おうとしている。こうした決断は、科学やテクノロジーに対する「中世的」とも呼べる誤認識の下になされた。「緑」の陣営は大概の論点においては正しかったが、こと原子力になると「兵器級」の幻影に怯えてしまっている。


2週間前、本紙はクリス・バズビー博士の仕事を検証した。その結果、バズビー氏が日本人に対して放射能対策となるサプリメントや検査を販売促進し、他の科学者はこれを無根拠で役に立たないものとしていることもつきとめた。また、福島の子供を救うためにと謳う基金で募金が集められ、送金先が実はバズビー氏がAberstwythに開設した事業用の口座だったこともわかった。また、バズビー氏の「ウェールズ北部で起きた放射線由来の白血病クラスター」に関する主張を科学者やNHS(英国保健局)が検証した結果、衝撃的なまでの統計的な間違いが含まれていることを発見した。さらに悪いことに、科学者達の見解では「このデータセットは体系的に改竄されたもの」だった。それなのにバズビー氏は本紙のレポートが公表されるまでは「緑の党」の放射線に関する顧問だった。同氏の「調査結果」なるものは、反原発活動家たちに広く引用されている。


先週NYTの記事で反原発の活動家Helen Caldicott氏が主張した「チェルノブイリの事故に由来した原因で100万人近くが死亡した」という内容も、すでに広く否定されているものだ。この主張の元となる「調査」は、周辺諸国で起こった死亡の統計を無理にチェルノブイリに関連づけたものだ。この統計の中には肝硬変も含まれている。東欧で肝硬変になる理由は、チェルノブイリ以外に見あたらないのだろうか?今年、Caldicott氏にこの説を裏付ける科学的なソースを提供するよう求めたところ、同氏にはそれができなかった。それなのに同氏は強気でこの説を繰り返し主張し続け、「緑の党」関係者はその説を拡散し続けている。


反原発の活動家達が生み出した迷信は、ダーウィンの進化論を否定する「創造主義」、「ワクチン陰謀説」、ホメオパシー、そして温暖化否定論と肩を並べる。どの場合にも、科学のプロセスが裏返っている。まず結論ありきで、その結論を導き出すための議論が慌てて組み立てられる。


間違いを犯したときに、その嘘を塗り固めるためにもっと大きな嘘をつくという誘惑に駆られる。自分の過ちがもたらした悲惨な結果には目を向けたくないものだ。しかし、少なくともここ英国ではその誤りを訂正する機会が訪れている。私たちの環境運動はこれらの迷信を潔く手放すことが可能だ。これから解説するテクノロジーがすべて削減、再利用、リサイクルという「緑」の要求を満たすものだからだ。


英国では原子力業界の近視眼に由来して、放射性廃棄物の処理という高価な問題に直面している。しかし放射性廃棄物は見方によれば資源の宝庫でもある。他の原子力プラントから排出された廃棄物で動く「IFR=統合高速炉」には大いなる可能性がある。これまでの原発では、燃料となるウランは0.6パーセントしか使用されない。IFRは残りのほとんどを利用することができる。地球上にすでにある放射性廃棄物だけでも世界のエネルギー需要を数百年間満たすことができる。その場合、ほとんどCO2の排出はなされない。IFRには核分裂を起こす燃料を一度だけ搭載すればいい。そこから先は核燃料のリサイクルを続けることでエネルギーの抽出を続けられる。最後に残るのは、ほんのわずかな廃棄物となる。この廃棄物の半減期は数百万年ではなく数十年と短い。その結果、短期的にはより危険な廃棄物となるが、長期的には管理しやすくなる。さらに、高レベルの放射性廃棄物が全部使われた後、IFRには世界中に貯まった劣化ウラン(U-238)をロードすることも可能だ。


再処理される燃料は、施設を離れることがない。密閉され、遠隔操作されるプラントの中で管理される。誰かが持ち出そうとしたなら、その人はすぐに死んでしまう。IFRで発生する核分裂の物質は流用が不可能であるために、核兵器の拡散リスクも低減する。またIFRプラントは大気圧を少し上回るだけの気圧で操業するため、事故が起こっても屋根が吹き飛ぶことはない。また、物理の法則が破られない限りはメルトダウンも起きない。燃料ピンが過熱した場合、膨張するために核分裂反応がそこで停止する。また福島原発で起きた事故のように電源を喪失した場合でも、人間の手を借りずにシャットダウンする。放射性廃棄物を燃料とし、これまでの原発よりもポンプやバルブの数が少ないため、大幅なコスト削減もできるだろう。


実はこの技術はすでに以前からあったが、政治的なミスリードにより開発が阻止されてきた。だが今すぐにでも利用可能だ。


先週、GE日立(GEH)社は英政府に対して、セラフィールド発電所の廃棄物として排出されたプルトニウムを使い切るためのIFRを5年以内に建設可能と伝え、もしもこの計画がうまく行かなかった場合、英政府は何も支払わなくても良いとオファーした。すでにロシアではIFRが30年間操業し続けている。中国やインドでも同系列の原発が建設中だ。GE日立社が提案する「プリズム」リアクターはIFRと同じ技術を用いるものだが、現在のオファーには再処理プラントが含まれていない。それも含めるべきだ。


もしも英政府がGE日立社のオファーを受け入れなければ、放射性廃棄物をMOX処理することになる。これは、ほぼ何の役にも立たない燃料を生み出し、さらなるプルトニウムのゴミを排出してしまい、原子力産業の燃費を0.6パーセントから0.8パーセントへと引き上げるにとどまる。


したがって我々環境活動家は選択を迫られている。放射性廃棄物をただ「いなくなってほしい」と念じても消えてはくれない。貯蔵するか、埋めるか、もしくはMOX燃料に加工するか。さもなければIFRの燃料とするか。今しも政府による決断がなされようとしており、我々は自らの立場をはっきりさせなくてはならない。私が提言したいのは、ラディカルな一歩だ。迷信ではなく、科学を指標に定めること。



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Posted by i-morley : 10:05